職人のこだわりを伝える書籍作り 浅井裕子×辻口博啓

今回のゲストは株式会社 柴田書店の浅井裕子さんです。辻口シェフの初めてのプロ向けレシピ本『モンサンクレール 軽やかさの秘密』の企画・編集を担当された浅井さんに、実際の書籍制作時のエピソードを交えながら、職人のこだわりを伝える書籍作りのお話を辻口シェフが伺いました。

文 編集部 写真 中本浩平

こだわりと秘密

辻口: 先日は僕のプロ向けレシピ本『モンサンクレール 軽やかさの秘密』を、浅井さんのおかげで無事に出版することができました、ありがとうございます。実は聞きたかったことがあるんです。浅井さんから企画を持ってきていただいたのが今回の出版のきっかけだったのですが、その一番の理由は何だったんですか?

浅井: いきなり核心をついた質問ですね(笑)。

辻口: じゃあ、もっと一般的な質問から(笑)。今の日本の食文化の広がりをどう思いますか?

浅井: 今度はすごく広い範囲からですね?(笑)まず世界のお菓子の話をしますと、日本の技術レベルはとても高いと思います。優れた職人の方もたくさんいますし、フランスで活躍している日本人パティシエもいますし、日本で修行して繁盛店を経営している方もいらっしゃいます。長い間お菓子の本場はフランスと言われていましたが、日本はもう本場と言ってもおかしくないくらいの勢いがあります。その中でも辻口シェフは、とても幅広く活躍されていらっしゃいます。

辻口: 確かに日本のお菓子のレベルは非常に高いですね。

浅井: でも私が辻口シェフの本を作ろうと思った理由は実はそこではなくて、偶然に辻口シェフのお菓子をお客さんとしてお店に買いに行ったんです。そして食べたら、お菓子が口の中で、すーっとなくなっちゃったんですよ。甘いんだけど甘くないみたいな、すごく不思議な感覚でした。その後にお会いした時に、どうして辻口シェフのお菓子はそんなに口どけがいいんですかって聞いたら、「うふふ、腕がいいからですよ」って言われて、ああやっぱりそれは秘密なんだろうな、て思って。

辻口: 僕はあまりその時のことは覚えていないんだけど(笑)。

浅井: 長年そのことを疑問に思っていて、たまたま辻口シェフの本を作れるかもしれないタイミングで、そうだ!あの疑問を解消できるチャンスだ、と思って辻口シェフに話をしたら、「うん?何のことですか?」というような返答しかなくて。考えてみると、甘いのに甘くないっていうのは、辻口シェフにとってはすごく当たり前のことだったと思うんです。ごく自然なことというか。

辻口: うんうん、そうですね。

浅井: 本を作り始めてからも、その話をしても辻口シェフはなかなか言葉で表現できないほど、自然なことだったと思うんです。今振り返ってみると、一つのケーキの中に苦みがあったり、えぐみがあったり、とほかの要素があるから甘さをあまり感じないっていうことを、辻口シェフは徐々に話せるようになっていったと感じていますが、ご自分ではどうですか?

辻口: 僕は基本的には、甘みや酸味などが共存することで、おいしさが表現されると考えています。さらにえぐみを加えることで深みが出たり、しっかりと火を入れることによって出てくる香ばしさなどもあります。例えばグリエしたピスタチオから出る苦みとも取れる香ばしさが素材として与えるインパクトが非常に強いから、砂糖が入っていてもそんなに甘く感じなかったり。
砂糖を減らせばいいということでは決してないんです。えぐみ、酸味、食感などが加わるからこそ、甘みだけを感じずにむしろ軽やかな風味を醸し出すことができる。内側にそういた要素を閉じ込めている分、外側はむしろシンプルに、というのが僕のお菓子作りのセオリーです。

書籍情報

辻口博啓『モンサンクレール 軽やかさの秘密』(柴田書店)
プロのパティシエに向けて、モンサンクレールのスイーツの魅力である「軽やかさ」の表現技法をレシピ紹介を交えながら辻口シェフが徹底解説。もちろんお菓子作りをしっかりと極めたい一般の方や、パティシエを目指す専門学校生のみなさんにもお勧めできる、辻口シェフ初のプロ向け専門技術書です。