余白の美から広がる味わい 宮崎哲弥×辻口博啓

H-style 5月宮崎哲弥×辻口博啓

あたたかいシュークリームのおいしさ

宮崎:一般の料理と違って、パティシエの世界は通念として「甘いものである」という限定があります。そのなかで創意を展開していくのは大変かと思いますが。

辻口:たとえばピーナッツバターですが、塩をちょっと効かせて炒ったピーナッツを中にいれる。そうすると、甘みのなかにぴっと入る塩分が脳に浸透して、うまみを感じさせます。そういうことを常に考えてお菓子の味わいを構築しています。フランス菓子は甘いと思われがちだけど、今のフランスで先端を走っているパティシエのつくるお菓子は、そんなに甘くない。日本の糖分のとり方と似てきています。

宮崎:あれほど確立されているかにみえるフランスのガトーも変わってきているということですか。面白いですね。

辻口:フランス人が日本のお菓子文化を自国に持ち帰るなど、文化交流も生まれています。例えば、お米はグルテンがないので胃腸での分解が早くて胃もたれしません。そこで、からだに優しい素材として、僕はお米の粉で作ったお菓子をフランス人のパティシエたちにインターナショナルスクールで教えたりしました。

宮崎:お米でお菓子もつくられているのですか。

辻口:ロールケーキもお米でつくっています。米粉でカスタードクリームを炊くと、でんぷんで固めたクリームなので冷凍できます。小麦粉で炊いたカスタードクリームはぼそぼそになってしまうので冷凍できない。そういう素材の違いを把握して、それぞれに合うおいしさを表現するのも、研究材料のひとつです。

宮崎:これから、もっともっとお菓子は洗練されていくのでしょうか。

辻口:持ち帰るお菓子は既にかなり洗練されていますが、ア・ラ・ミニッツのデザートを食べさせる分野はまだまだ確立することがあると思っています。僕はよくホテルのフェアなどで、料理人の方とコラボレートしていますが、そういう機会にできたてのデザートを提供しながら、「モンサンクレール」のお菓子とは異なる、僕ならではのアシェット・デゼールも確立していきたいな、と考えているところです。シュークリームも、あたたかいシュークリームってすごくおいしいんですよ。できたてのクリームを焼きたてのシューにつめて。そういったものも、本当は食べてもらいたい。

皮膚感覚を大事にするお菓子へ

H-style 5月宮崎哲弥×辻口博啓

宮崎:いろいろな料理人の方とコラボされているというお話でしたが、コース料理では、最後にデセール、ドルチェが出ますよね。料理人のつくる甘いデザートと、辻口さんのような専業のパティシエがつくるスイーツ、ガトーとでは、どういうところが違うのでしょうか。

辻口:なめらかなガナッシュをつくるために、真空状態で乳化させる専用マシンをもっている……そんな設備投資の違いも大きいです。手で乳化させるのとでは、口にいれたときの繊細さがまるで違いますから。一方で、料理人の方は、料理の発想のなかで素材をチョイスして、フレッシュ感を表現するのはうまい。桃をくり抜いてそこにアイスを入れたり。こういうのはテイクアウトに向いていないので、われわれの発想には浮かびにくかった。料理人の発想と、我々の技術を融合していく必要があります。料理のようにデザートをつくることが、これからのパティシエのひとつのテーマになるでしょう。

宮崎:それは楽しみだなあ。ふつうのコース料理で出てくるものと、まったく違うデザートが楽しめるようになるのでしょうね。お茶の時間が待ち遠しくなる!

辻口:宮崎さんはいつも的確なコメントをされる方だとテレビを見ていて思っていましたが、今日お話しして、食にも精通されていて、食の世界が好きなのが伝わりました。

宮崎:精通はしていませんが、こっちのほうが本当は好きなんです。先日番組で、料理評論家の山本益博氏と対談したときも話が弾んで、「政治の話よりずっと楽しそうですね」とスタッフにいわれました(笑)。

辻口:益博さんは「男を酔わせるタルトタタン」と僕のお菓子のことを書いてくれて、以来、交流があります。初めて「すきやばし次郎」に連れていってくれたのが益博さんですが、最初に食べたときはわからなくて、ふつうのすし屋さんに思えた。2回目で、驚いた。口に入れたときのほどけ具合、なんともいえない絶妙なバランスで握っていて。

宮崎:2回目でノックアウトされるというのは、「すきやばし次郎」みたいな名店との接し方として最高でしょう。1回ではわからないものですよ。

辻口:シャリの温度が大事だと思えたのは、あそこのお店が初めてでしたから。

宮崎:先ほどおっしゃったように、お菓子についても、鮨屋がシャリの温度を大事にするみたいな、皮膚感覚も新たな「味」とする世界に入っていくのでしょうね。店舗売りのお菓子とも、フルコースのデセールとも違う世界を、辻口さんが洗練された技術と創意で切り開いてくださると………。まったく、また食べ過ぎてしまうじゃないですか(笑)。

宮崎哲弥 (みやざき・てつや) 評論家 プロフィール

1962年福岡県生まれ。慶應義塾大学文学部社会学科卒業。政治哲学、宗教論、サブカルチャー分析を主軸とした評論活動をテレビ、雑誌などで行う。最新の著書(監修)は『日本のもと 憲法』(講談社)。他にも『映画365本』(朝日新書)、『新書365冊』(朝日新書)、『日本経済復活 一番かんたんな方法』(勝間 和代氏, 飯田 泰之氏との共著、光文社新書) など多数。


☆宮崎哲弥さんがさまざまな分野のゲストを招き、中長期的な視点で問題を分析!
「宮崎哲弥のトーキング・ヘッズ」(CS朝日ニュースター毎週金曜 夜9:00-9:55 他)
公式ホームページ:http://asahi-newstar.com/
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