農業からはじめるパティスリー 鎧塚俊彦×辻口博啓

11月5日、神奈川県小田原市の山の上に果物畑や養蜂畑、野菜畑を併設した農園レストラン&パティスリー「一夜城 Yoroizuka Farm」をオープンした鎧塚シェフ。常に新しいことに挑戦し続けるトップパティシエ2人が、これからのパティスリーのあり方、農業のあり方について熱く語りました。

文 松永真美  写真 中本浩平

小田原の山の上にパティスリーをオープンしたわけ

辻口シェフに園内を案内する鎧塚シェフ

辻口: しかし、広いですよね。構想は長かったんですか? 実は僕も僕も来年の4月に三重でこういうことをしようと思って。温泉もあって、足湯につかりながらお菓子食べられるような。

鎧塚: 2年くらいですね。おととしの8月に地元の農家の方達に説明会をして、去年の春から実際動き出して。

辻口: この場所に決めたのは?直感ですか?

鎧塚: 最初のうちは、土地を探していろいろ見て回っていました。那須とか茨城とか。でも果物を作るだけならいいけれど、レストランなどの設備はきびしいなとか、スタッフの住む場所はどうするんだ、とかいろいろ問題があって。それで、初めてここに来たとき、まず景色がすごくよくて。周りは果物畑だし。それに山の上だけど町から10分なんですよ。これならスタッフが住むにも問題はないし。いいなと思っていたら、市長さん方が最初から来てくださって、受け入れ態勢が信用できる形であったんですよね。それですぐに決めました。

辻口: なるほど。ここでパティスリーをやるっていうのは、すごい決断だなと思いました。

鎧塚: 最初は電気もガスも水道も通っていなかったので、まずはインフラを整えるところから始めたんですよね。少しずつ作ってきた感じです。

辻口: 鎧塚さんは、チョコレート農園などもやっていて、素材に対するこだわりっていうのをかなり持っていると思うですが、やっぱりそういうのってこれから大事ですよね。

鎧塚: そう思いますね。あと、辻口さんもそうですけど、スタッフもたくさんいますから、やっぱりなぜやるのか、というのは大事になりますよね。例えば、儲かるからという理由だったら誰もついて来ませんし。ビジョンがあって、夢があって、だからこそスタッフも地元の方達も「よし、やろう」という風になるわけで。

辻口: お店の方向性ですね。

鎧塚: そうですね。だから、素材を重視するのはもちろんのこと、これからは、大義名分というか、何をやるか、なぜやるのか、というのをしっかりするのが大事だと思っています。自分が何をしたいのかをはっきりさせるというか。事業を続けていく上で利益というのは必要です。それに地元の農家の方にも協力していただいているから、やる以上は利益を数字として残していかなければならない。でも、それが目的になってはいけないなと思うんですよね。

辻口: そういう意味でコンセプトがすごくはっきりしていますよね。ここでとれたものをお菓子や料理にしていく。僕も3年半前に三重県で「辻口いちご」といういちごハウスを作って、そこでとれたいちごでお菓子を作ったりしていたんです。そこから発展して、来年いちごファームを基軸にして辻口プロデュースの畑と温泉をやらないかという話になっていて。だから鎧塚さんのこの取り組みはおもしろいし、参考になるなと思っています。