ナショジオ「一生に一度だけの旅」の秘密と世界の食 武内太一×辻口博啓

ナショナル ジオグラフィックは、1888年に創刊された月刊誌。訪れた地を「臨場感ある美しい写真」で読者に届けてきました。ナショナル ジオグラフィックが発行する「いつかは行きたい 一生に一度だけの旅」シリーズは、魅力的な写真と、旅をしているような気分になれる読み物で構成された従来にない旅の本。今回は日本版を発行する日経ナショナル ジオグラフィック社の出版ディレクター武内太一さんと辻口シェフの対談をお届けします。

文 松永真美  写真 中本浩平

「ナショナル ジオグラフィック」と旅の関係

辻口: (2011年12月号を開いて)美しいだけでなく、訴えかけるような写真が多いですね。こんな撮り方、なかなか思いつかないですよ。すごいな。これを撮った人は、普段どんなふうに物事をみているんだろう?

武内: シェフ、最初から鋭いところをつかれますね(笑)。「ナショナル ジオグラフィック」の魅力の一つはシェフがおっしゃった「写真」です。どうして写真に力を入れているか、少しナショジオの歴史を振り返らせてください。

月刊誌「ナショナル ジオグラフィック」は米国のナショナル ジオグラフィック協会が124年前から発行し、電話の発明で有名なグラハム・ベルも会長をつとめるなど、大変歴史のある雑誌です(日本版は1995年創刊)。そもそも地理学の振興を目指すことが目標だったので、読者に取材地の情報を文字だけで伝えるより雄弁に事実を語る写真を誌面に取り入れます。

100年前は多くの雑誌がまだ文字中心という時代。文字だけの紀行文では、読者は実際にどんなところなのかを想像するほかありません。写真ならまさに「百聞は一見に如かず」。当時のハイテク技術である写真を誌面にふんだんに使う斬新さに、多くの人がナショジオを支持し始めます。

例えば、皆さんもご存知のマチュピチュ。これも協会の支援で1911年にイェール大学の教授によって発見され、1913年には写真入り記事がナショジオ誌面を飾りました。ほかにも、デカプリオとケイト・ウインスレットの演技が一世を風靡したジェームズ・キャメロン監督の映画「タイタニック」。タイタニック号の発見もナショジオが支援するプロジェクトから生まれ、海底に眠るタイタニック号の舳先(へさき)の写真が誌面を飾りました(キャメロン監督は2011年からナショナル ジオグラフィック協会付きの研究者にもなっています)。

このように、ナショジオは、写真に徹底的にこだわる雑誌です。年々進歩してきたカメラ技術と共に歩んできた雑誌と言ってもいいでしょう。

辻口: このトラの写真なんか、ものすごく近くで撮ってるみたいだけど。

武内: そこは、カメラマン独自の工夫があります。例えば、通り道にセンサーを仕掛けて自動で撮影するのです。野生の動物に、ここまで近寄ってこのようなカットを撮影するのは、まずできませんからね。このようなダイナミックな写真も、ナショジオの魅力の一つです。

お菓子も食べて初めてそのおいしさを実感できますよね。それと同じように、世界で起きていることについても写真を見て一目瞭然で分かる、ということがこの雑誌の底流に流れていると思います。

写真家も大変なわけですが、実は編集や印刷会社も大変なんです。誌面のほとんどがグラビアです。写真家が撮り下ろした美しい写真を、最新の印刷技術で忠実に再現しなくてはなりませんから。色味のチェックや印刷も慎重です。